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現代美術史を紐解く最良の手引き「アート:“芸術”が終わった後の“アート”」

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 現代美術にはルールがあるということを以前の記事で書いた。
 アートにはルールがある「芸術闘争論」 - 読書ログ。 - アート/音楽/英語学習をメインに
 そのルールを一言で表すなら、美術史的な文脈をもちながら時代を表現すことだと言えるだろう。
 現代美術と社会は密接に繋がっている。美術的、社会的な背景を知ることで作品のもつ意味やメッセージに気づくことができるようになる。それは見た目の好みを越えたより深い理解へと繋がる。
 そのための手引きとして最適なのが本書「アート:“芸術”が終わった後の“アート”」(著者・松井みどり)だ。

アート:“芸術”が終わった後の“アート” (カルチャー・スタディーズ)
 

 現代美術はどのようにして始まり、何を表現してきたのか。
 批評家・松井みどりによって書かれた本書は、80~90年代の現代美術界に現れた傾向を紹介し、それぞれの理論的なものと芸術表現の相互関係を指摘している。
 ひとつの作品からは浮かび上がってこない歴史的な流れを一望できる数少ない良書。
 惜しむらくは2002年出版なので最近の動向は網羅されていないということ。続編を期待したい。

  本書の具体的な内容についてはかなり専門的な領域に踏み込まなければ書けないのでその全体をここで示すことは控えておく。
 その代わりに本書のなかで、僕がもっとも好きな現代美術家について書かれたテキストを引用することでどのような眼差しで本書が書かれているのかを伝えたい。


フェリックス・ゴンザレス=トレス(キューバ出身/57〜96年)

90年にトレスは、キャンディ彫刻というものを行いました。それは、「コーナー-スピルズ」と呼ばれる、キャンディやクッキーを壁際に積み上げた作品です。形態的には、これがランド・アートのパロディであることは一目瞭然です。けれどもそれは、岩や土ではなく甘いキャンディでできているのです。そこでは、同じ形態を使いながら、ランド・アートのマッチョな「力」の提示から、日常的で「取るにたらない」ものの表現への転換が成されていました。

 

そこでは、作家の指示にしたがってギャラリーの人が、作品を構成するのですが、そこで決められているのは作品の重さだけです。その数字は、トレス自身の体重、あるいはトレスと、そのパートナーだったロスという人の体重を足したものです。ロスは90年に亡くなりましたが、トレスには彼がだんだん死に向かっているという嘆きもあったのでしょう、展覧会が行われている土地で手に入る最も典型的なキャンディを、ふたりの体重を足した何ポンドかの数字分の重さだけ壁際に好きな形で積み上げてよいとしました。そして、あとは観客が1個ずつ持ち帰れるようにしたのです。観客との出会いのなかでキャンディーの山は変化していき、しまいには消えてしまいます。けれども、アートのイベントに参加した記憶は贈り物として残るのです。

 

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